短編集 一区間のラブストーリー
第20章 短編その二十
ああ…今年もまた
近所の商店街に
ジングルベルの曲が流れ始めた。
曲は軽快だが、商店街を歩く客はまばらだ。
記憶を辿れば俺が幼稚園児だった頃は
もっと商店街も賑わっていたよなあ…
それが今では商店のほとんどが
シャッターを下ろし
見事なシャッター通りになりつつある。
商店街の組合も
こうやって音楽を流すのも
虚しいと感じているんじゃないだろうか。
「清~、夕飯、何が食べたい?」
階下で母ちゃんが献立の相談をしてくる。
「いらねえよ!
今夜は純一の家で受験勉強をしながら
あいつんとこでご馳走になるって
前々から言ってあっただろ!」
ったく…
母ちゃんのまずい飯なんか食えるかよ
純一んとこの母ちゃんは
調理師免許を持っているだけあって
我が家の食卓とは雲泥の差だった。
おまけに若いんだから非の打ち所がなかった。
純一の母親は高校生のときに
ディスコという所で知り合った男と
行きずりのSEXをしてしまい。
ものの見事に一発でご懐妊したそうな。
今でこそシンママなんて当たり前だけど
当時はそりゃあ世間から
白い目でみられたんだそうだ。
おっと、そんな回想録に
浸っている場合じゃない。
純一との約束の時間に遅れてしまう。
俺は参考書と問題集をカバンに詰め込むと、
慌てて家を飛び出した。