白い飛沫(しぶき) ~初恋物語~
第17章 人気作家
気分転換に部屋を抜け出したくても、
出版社の担当が目を光らせているので
自由に外出もできない。
これでは仕事に名を借りた監禁ではないか。
〆切まであと3日。
大丈夫、書き上げますよと言っても
一向にペンが進まないものだから
出版社の監視もますますひどくなる。
ペンが進まない理由はわかっている。
今回のテーマが官能時代劇だからだ。
なにも僕にこんなものを書かせなくても、
このジャンルには
大御所が何人もいるじゃないか。
台詞ひとつにしても、
古風な言い回しを書かなければならない。
ああ、もうイライラしてくる。
コンコンとドアをノックする音で我に返る。
「はい、どうぞ」
僕に断りもなく、
担当の吉岡が訪問者を招きいれる。
入ってきたのは30代の女性。
細いフレームの眼鏡が
細面の顔によく似合っている。