神の口笛
第9章 9
「――…っと、説明はこんなところかな。僕は隣の棟の1階にいる。なにかあったらすぐに来ると良い。」
「わかった。」
知らない顔ばかりの異国で、レイモンドがそばにいるのはやはり心強い。
彼は今日も深い色の瞳でやさしくエマを見つめ、自分の棟へ戻っていった。
…
エイミーは退屈な王宮暮らしに飽き飽きしていて、自分の知らない話にはなんでも好奇心旺盛だった。
エマの弓矢をめずらしげに触ったり、恋の話をよくしたがる。
本当はクリスという青年が好きだが、彼も兵士であり、しかもまだ下っ端で、父である国王様に認められるはずがないので黙っているそうだ。
「軍では性交が自由ってほんと?」
「うん。」
「私いやだ、そんなのっ。SEXだって結婚だって、愛する人としたいわ。」
「そう…だね。」
すぐにグレイの顔や優しい指先が脳裏に浮かぶ。
「私、自分が王女じゃなくなったっていいの。貧乏でも、愛する人と居られればきっと幸せよ。エマはどう思う?」
「私もそう思う。」
日々の会話を重ね、2人はすっかり意気投合していた。
「たまに会いに来てくれるの。内緒でね…。」
今日も、エイミーの恋するクリスの話に花が咲く。
「そうなんだ。」
「ねぇ、エマ…。エマはSEXしたことある?」
「…うん。」
「そうだよね。私は…まだヴァージンなの…。」
「王女様だから、なにもおかしくない。みんな大切なんだよ、エイミーが。」
「エマ…。」
「それに私も、少し前までヴァージンだった。」
「そうなの?」
「うん。」
「相手はだあれ?」
「グレイという、特攻騎馬隊長…。」
孤児院で共に育ったことや、兄妹のような関係だということは、なんとなく伝えなかった。
その頃、グレイはガルダン基地と王宮との伝令役を買って出ていた。
これで数か月に一度は、エマに会う機会ができるはずだ。もし会えなくても、少しでもそばにいられるだけでいい。