神の口笛
第11章 11
「…御神木へ行きたい。」
「あぁ。行こうか。」
北棟を出て、暗がりの中を御神木まで歩く。
今夜も、あの頃…皆で切磋琢磨していたあの頃と、なにも変わらない星たちが光っていた。
御神木にひざまずき、2人そろって祈りの言葉を唱える。
もう何年も帰ってこなかった兵士に対し、もしかしたらと心構えはしていたつもりだった。
それでもルイの死は、エマにとってもグレイにとっても痛いものだった。
御神木に触れ、エマは自分の過ちにも懺悔が必要だと悟る。
「あのね…グレイ」
…
レイモンドとのことを話す間、グレイは一言も発さなかった。
ただ黙って、ジッとエマの目を見つめ続けた。
「お前はあの男を愛したというわけか?」
「ちがう。…愛せなかった。だから結婚もしなかった。私は……。」
少しの沈黙――
「…。俺がお前のそばにいられない間、お前を支えた存在があの男なら…感謝しなければな。」
グレイはエマを許すように、しかし激しく、何度も抱いた。
この狂おしい夜が永遠に続けと、エマは心から祈った。