神の口笛
第5章 5
「ソフィアはよくて私は駄目なんだ。私が妹だから?せくしい、じゃないから?」
エマは自分でも理解不能だった。
突然何を言い出すんだろうと、他人事のように思った。
グレイは「せくしい」というたどたどしい言葉に、またどこかで変なことを吹き込まれたのだと悟った。
「すまない。一気に言い過ぎたな。混乱してるんだろう。今日はもう眠れ。明日はゆっくり休める。」
「…っ――。」
初めこそ息を荒げていたエマだったが、それもやがて落ち着いてくる。
…
スースーとグレイの寝息が聞こえた。
普段はエマが先に寝てしまうので、こんな事は珍しい。
―――眠れない…。
エマはそっとグレイの耳を撫でた。
”キスしたい?”というステラの言葉が脳裏をよぎる…。
暗闇の中、手探りでグレイの唇に触れた。
張りのある整った皮膚にするりと指を這わせてから、自らの唇を重ねる…――
鼓動がうるさい。
息切れしそうなほどだ。
もう一度……今度は舌先でグレイの唇を小さく舐めた。
涙が出てきた。
私はいくつになっても妹でしかなく、ソフィアや他の女たちのようにはいかない。
ああ私、グレイとキスがしたかったのか…。
もう一度だけ…
そっと唇をのせた瞬間、グレイはごろりと寝返りを打ってエマを抱きしめた。
「そんなにキスがしてみたいか。」
低い声が耳元にこだまする。
「お…起きてたの…」
グレイは返事をせず、エマの顎を持ち上げて口づけた。
「ん…んんぅ…っ」
あたたかい舌が入って来て、絡みつく…
「んはぁ……っ」
唇を離し、暗闇に慣れてきた目でグレイを見る。
グレイはどこか険しい表情でエマを見つめていた。
「舌を出してみろ」
エマは言われたとおり、おずおずと控えめに舌を少し出した。
グレイの舌が迎えに来る…―――
頭が真っ白になり、身体の芯がビクンと硬直した。
――キスってこんなに気持ちが良いの…。
その刺激に、快感に、夢中でグレイの服にしがみつく。
なめらかな舌と舌がいやらしくうごめいた。