神の口笛
第5章 5
「エマ…。」
吐息交じりに名を呼ぶ低い声。
心地よく掴まれている乳房、舌の熱、視線。
「やぁ、だめ、っんあぁああっ――――…」
両方の脚をぎゅっと閉じ、腰がビクビクと痙攣する。
―――なにが起こっているか分からない。
ただただ、ものすごい快感の波だった。
あれは、何だったんだろう…。
「俗には…、イク、と言ったりするな。あの世へ逝ってしまうほどの快感という意味だ。」
「私はイっちゃったの?」
「たぶんな。」
たしかに、すべてが吹き飛んでしまうほどの快感だった。
SEXをしている兵士は皆、この快感を求めていたのかな。
そう考えると納得し、それから少し怖くもなった。
「グレイもイッたの?」
「…。軍学校の性教育で、男は精液を分泌すると習ったろう?」
「うん。」
「男は”イク”と、精液が出る。」
「…出たの?」
「出ていない。」
こんな会話、エマ以外とは可笑しくて出来ないだろう。
でも大真面目な彼女には、しっかりと教えておいた方がいいと思った。
「もうすぐ出る?」
「いや、出ないだろうな。」
「なんで?どうしたら出る?」
「…。ペニスを触ったり、女の膣に入れると出るもの…だな。」
「ふぅん…。」
「俺の事はいい。ほら、もう眠れ。」
「うん…。」
「明日は農園でトマトをもらってこよう。」
その場を紛らわすようにグレイは言う。
エマは喜び、やがて穏やかな眠りについた。
グレイは小一時間も自分の欲望を抑え込むのに葛藤し、やっと眠った頃にはもう真夜中になっていた。
…
「わあ!大きい!」
トマトが植わった畝でエマがはしゃいだ。
「どうぞ、お好きなのを取ってください」
農夫が低姿勢で言った。
「こいつは、トマトが大好きでね。」
「ああ、それでよくトマトを取りに来なすっていたんですね。」
グレイと農夫が喋っている間、エマはどのトマトが良いか真剣に吟味していた。
思わず笑みがこぼれてしまうほど愛らしいその姿は、昨夜身をくねらせて感じていたものとは縁遠く見えた。