神の口笛
第5章 5
「トマトはどうすればできる?」
唐突に、エマが農夫に尋ねた。
「種を蒔くんです。それから水や肥料をやって、お日様によく当ててやる。そうすると大きなトマトが出来ます。」
「ふぅん…種を蒔くのか…。すごいな!こんなの作れるなんて」
「ふふふ。よかったら作ってみますか?自分のトマトを」
「え!」
エマの目がキラリと輝いた。
すぐに畑の隅に種まきをし、「Emma&Gray」と書かれた木の板を農夫が差し込んだ。
グレイと交代で水やりなどの世話をすると決め、棟へと戻る。
あの2人は兄妹か、アベックか…
農夫は深追いするのをやめ、トマトの生育を静かに見守ることにした。
「もう一度、キスしてみたい。」
休養日である今日、エマはグレイに言った。
断る理由など自分にはないが、エマの思惑が分からず戸惑うところもあった。
「本来なら、真昼間からするものじゃない。分かったな。」
「うん。」
ベッドに腰掛けているエマの隣に座り、そっと唇を重ねた。
窓から昼の太陽がやわらかく注がれ、2人を基地ではないどこかへ誘っているようだった。
「ん…ふぅ…んぁ…」
時折漏れるエマの吐息は、甘ったるくグレイの耳へ流れ込む。
2人はそうして、日が暮れるまでキスをしたり、抱き合ったり、少し眠ったりした。
実に久しぶりの休養日らしい1日であった。
自主トレーニングをやめてよかったと、少し思った。
そしてとめどなく溢れてくる、グレイの唇が欲しいという欲望…。
これまで感じた事のない感情に、エマは自分がどっぷりと泥沼に嵌っていくかのような錯覚をおこした。