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雨の降る夜は傍にいて…

第3章 9月の雨(September Rain)

 39 あれから…⑥

『まるでゆりさんは、あまのじゃくのようだな…』
 豪さんは唇を離し、そう呟いた。

『えっ、あまのじゃく、それって何?…』
 わたしは問うた。

『うん、まぁ、簡単にいえば…
 あえて人と違う意見を言ったり、本心とは裏腹な態度を取ったりする人…
 ま、昔の妖怪なんだが…』

『ええ、簡単に云ったらひねくれもの…
  って事なのかなぁ…』

『うむ、まあ、そんなところかな、ふふ…』
 そう呟きながら、彼は笑う。

『え、ひどぉい、何笑ってんのよぉ…』

『いや、あまのじゃくは、天の邪鬼って書くんだが…』

『えぇ、鬼が入ってんじゃない…』

『うむ…ふふ…』

『え、なによぉ…』

『いや、キミ、ゆりさんの場合は…そう…
 雨の邪鬼かなってさぁ…』

『え、雨の邪鬼……』

『だってこんな雨の夜にしか、キミは、ゆりさんは昔から現れないじゃないか…
 だからさ…』

『だから…雨の邪鬼、あまのじゃく…か
 だけどゆりさんの場合は、雨の邪気にしておくよ…』

『鬼の文字が消えただけじゃない…
 もお、豪さんたらぁ…』

『天の邪鬼は鬼だが、雨の邪気は妖精にしておくよ…
 雨の降る夜にしか現れない妖精にさ…』
 そう忠さんは、わたしの肩を抱きながら云ってきたのだ。

 雨の降る夜に現れる妖精…

 あまのじゃく…

 ひねくれものの『雨の邪気』と…

 確かにそうかも…

 わたしは豪さんがいなくなって以来、雨の降る夜に巷を彷徨い、男を漁る、妖怪、いや、妖精、『雨の邪気』なのだ…

 特に、この二回目の手術をしてからは疼きが酷く、大型低気圧の夜は、耐えられない程にカラダと心が疼いてしまっていたのである。

 でも…

 これからは豪さんが戻ってきてくれたのだ…

 そしてこんな夜は、再び、昔のように、このカラダと心の疼きを鎮めてくれる筈なのである…

 


 こうしてわたしは
 『バー ウーッズ』の、マスター、大森豪さんと三年ぶりに再会をしたのである。


 そして彼はお金の不自由さや、欲望がなくなり、文字通りにカラダにも心にもゆとりができて、悠々自適にバーライフを生きているのであった…







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