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雨の降る夜は傍にいて…

第3章 9月の雨(September Rain)

 40 9月の雨の降る夜は…

 そしてこの豪さんを見ると、
 
 やはり人とは…

 人間とは…

 まずはお金の存在が一番大切なのだろうとつくづく感じられるのである。
 使い切れない程の大金を掴んだ忠さんは、すっかりと日常の生活感の匂いがなくなって、悠々自適の生活を送り、このバーウーッズ経営は完全に趣味、生き甲斐の領域に入ったのである。
 そして、わたしが見て、感じていた限り、元々がゆとりある大きな人物ではあったのだが、更に、より大きな人間になって帰ってきたのだ…と、わたしは感じていたのであったのだ。
 
 だから、こんな雨の降る夜は…

 激しくカラダも心も疼く様なこんな雨の降る夜は…

 もう少しも遠慮などせずにわたしは彼に甘え、抱かれ、愛されに行くのである…

「雨の妖精か…」
 わたしはそう呟きながらタクシーを降り、この『バーウーッズ』のドアを開けたのだ。


「こんばんは…」 

「おや、いらっしゃい、雨の妖精さん…
 なんとなく…
 今夜は顔が見れると思っていたよ…
 雨の妖精さん…」
 そうマスター、豪さんが微笑みながら呟いてきた。

「ふうん、そう…なんだ」
 わたしは、ズバリ、見透かされていたようで少しだけつまらない。

「ドライマティーニを…
 あと、ピクルスもちょうだい…」

「おっ、今夜も飛ばしてくるね…
         今夜も疼くのかい…」
 マスターは、そう呟いてくる。

 そしてわたしは黙って頷いた…

 特に、この今夜のような超大型低気圧である台風が沖縄付近に停滞している為に降っているこんな9月の雨、秋の雨の長雨の夜は、カラダも、心も、激しく疼いてしまい、ましてや今夜の酒宴の後の様な夜には、特に心の疼きの昂ぶりが激しいのであったのだ。

 だから…

 もう、こんな劇的な再会を果たしたのだから遠慮などせずに…

 こうしてこの『バー ウーッズ』に来店し、そしてマスターに抱かれて、抱き締めてもらい、そして朝まで傍にいて貰う事に決めていたのである。

 これが、マスター曰く

 必然の流れなのだから…


 9月の冷たい雨は…

 こんな9月の雨の降る夜は…

 アナタに…

 傍にいて欲しい…

 傍にいて抱いて欲しいのだ…


 第3章 9月の雨(September Rain)

        完



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