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雨の降る夜は傍にいて…

第4章 台風12号MUIFA(ムイファ)

 39 必然的な再会

「そうか…
 じゃあ…………るか……」
 浩司が呟いた。

 えっ、な、なに、聞こえなかった…

「えっ…」
 
 ま、まさか…

「また……俺の…女になるか…」

 今度は、はっきり聞こえた…

「う、うん…」

 もちろんだ、断る理由がない…

 わたしはその浩司の言葉に涙が込み上げ、そしてこぼれ落ちた。

「あ……」
 頬に涙がつたい落ちる。

「……そんな、泣くなよ…」

「だ、だってぇ…」
 感涙である。
 そして、まるで夢を見ているようであった。
 つい、4時間程前には想像もつかない出来事であるから。

 まさか…

 まさか、浩司と再会するなんて…

 そして…

 そして、抱かれるなんて…

 しかもこんな台風接近の心が不安定な夜に…

 それも9年振りなのだ…

 この9年間、たった一度も見かけた事さえなかったし、噂でさえも訊いた事がなかったに、なぜ、今夜の出会いなのだろうか…
 今夜、あの長かった空白の9年間という時間が瞬く間に埋まったのだ。

 そしてわたしの脳裏に
『人の出会いは偶然の積み重なりであり、必ずその出会いには意味があり、つまりは必然なのである…』
 不意に、バーのマスターの大森豪さんの得意な
『必然的出会い理論』
 の、言葉が浮かんできた。

 これは必然的な再会なのか…

 だったら何か意味があるはずだ…

 そしてこの浩司との再会に、何の意味があるというのか…

 浩司は涙を溢しているわたしを引き寄せ、キスをしてきた。

 涙のキス…
 それは、涙味の塩辛いキスであった。

「今からゆりは…俺の女………な…」
 その言葉に、わたしは黙って頷いた。

 本当に嬉しい浩司の言葉であったのだが、ただ、わたしには色々と気になる事があったのだ…

「で、でも…
 本当に、いいの…」

「いいよ…
 全部オーケーさ、問題ないよ…」

「えっ…」
 
 全部オーケーって…

 問題ないよって…

 その浩司の言葉に、わたしは不思議に思ってしまったのである。

「だから、全部オーケーなんだよ」
 
 彼はそんなわたしの顔を見て、そう云ってきたのだ…

 そして、スッと左手を目の前にかざしてきた。

「あっ…」

 ドキドキドキドキ…

「えっ…」

「うん…」

 浩司の左手薬指に指輪がなかったのだ…




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