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雨の降る夜は傍にいて…

第4章 台風12号MUIFA(ムイファ)

 42 歪んだ恋愛観

「ええー、社長ぉ、マジですかぁ…」
 わたしはあの時の想いを正直に彩ちゃんに伝えたのである。

「うん…」
「まだぁ、実感が湧いてきてないんじゃないんですかねぇ」
「そうだとは思うのよ…」
「それがぁ、一昨日の夜のぉ、お話しですよねぇ」
「うん…」
 わたしは頷く。

「連絡はぁ?」
「昨夜、少し電話で話したわ」
「…でぇ?」
「うん、普通だった…」
「次の逢う約束は?」
「うん、いちおう明日の夜に…」
「ふうん、じゃあ問題ないんじゃぁないですかねぇ…」
「そうかなぁ、うん、そうよねぇ…」 
「それにぃ、社長のぉ、逢いたい時にぃ、いつでもその気になればぁ、逢えるんですよねぇ」
 
「うん…多分…」
 そうなのである、浩司も経営者、社長なのである、そして今度は正々堂々の独身なのだ。
 極端な話しいつでも逢う気になれば逢えるし、一緒に住む事だって可能なのである。

 お互いに独身なんだから…

「だったらぁ、問題ないんじゃぁないんですかねぇ…
 きっとぉ、余りにも突然なんでぇ、社長がぁ戸惑ってるだけなんじゃないんですかねぇ…」
 と、彩ちゃんは云ってくるのだ。

「独身という安心感が、まだ、実感できていないんじゃぁないんですかぁ…」

 そうなのである、きっとそうなのだ、余りにも突然なのだ…
 わたしはとりあえずそう思う事にした。

 まずこれからの問題は、このわたしの歪な歪んだ恋愛観を変える事なのだ…

 ますはこれが最優先課題なのだと思われるのである…

「社長ぉ、幸せってぇ、実はぁ、無くしてから実感するもんなんですよぉ…」
 わたしはそんな彩ちゃんの言葉にドキッとしてしまう。

 そうであった…
 あの浩司と別れてからの約三年間はとてつもなく、色々な意味で辛かったのだ。
 反面、バスケット指導者人生は頂点へと昇っていき、余りの皮肉さに心が焦げる想いを感じていたのだった。

 もうあんな想いは感じたくはない…

 贅沢な悩みなのだ…

 そしてわたしは今年の秋の、こんな連続する台風の発生に翻弄されていったのである、だが、こうして、傍に居てくれる彼を見つけ、いや、再会したのである。

 そして心が満たされる筈であったのだが…



 第4章 台風12号MUIFA(ムイファ)
     
        完






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