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雨の降る夜は傍にいて…

第1章 台風の夜

 1 傷痕

 わたしのお腹には傷痕がある。
 それも二本の傷痕があった。 

 一本はヘソ下から恥骨の辺りにかけて…

 もう一本はみぞおち下からヘソに向かって降り、途中でL字型に右側に曲がっている…

 一本目は三年前の大腸がんステージⅡAの手術痕。
 二本目は半年前の転移性がんステージⅠの手術痕である。



「気象庁が発表した台風情報によりますと、台風8号(メアリー)は明日日中に東日本太平洋側にかなり接近し、上陸する見込みです。
 今日これから東日本太平洋側を中心に、土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫、暴風や高波に警戒が必要です…」
 夕方に、テレビの女性ニュースキャスターがそう伝えていた。

「ふん、そんな事はもうわかってるわよ…」
 わたしはテレビを見ながら、そう独り言を呟いていた。

 わたしにはそんな事は半日も前からわかっていたのである…
 なぜなら、三年前と半年前の手術痕が、ひと足先に気圧の低下を敏感に感じ取り、ズキズキと傷痕を疼かせてくるからであったから。
 いや、正確には17年前の前十字断裂及び半月板損傷の傷痕も敏感に反応してきていたからである。

 こんな台風や、巨大な低気圧の接近に、まるでレーダーの如くにズキズキと反応してくるのであった…
 そしてその傷痕の疼きは、半年前の二度目の手術後から、わたしの自律神経も不安定に疼かせてくるのであったのだ。






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