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雨の降る夜は傍にいて…

第1章 台風の夜

 2 退屈な日々

「彩ちゃん、台風来てるみたいだから、今日はもう終わりにしましょう…」

「あ、社長、了解でぇす」

「明日も状況次第かなぁ…」

「はぁい、朝にでも社長に電話しますよぉ」

 わたしは親の事業を引き継いで、建設資材や骨材関係の商社的な会社を経営していた。
 仕事自体は親の築いた商社ルートの流れを完全に引き継いでおり、そしてまたそれが固いルートで固定されているので、比較的安定し、景気的にも決して悪くはなかったのである。
 だから日々、パソコン一つと電話一本で仕事ができるような平穏な毎日を送っているといえたのだ。

 経済面では恵まれた、安定した生活であるといえた。
 だが、人間とは、いや、わたしは贅沢で、貪欲な生き物であるのであろう。
 毎日が平穏で、平凡で、退屈なのである…

 世の中では、明日のことが不安で夜も眠れない、経済的に不安で自殺さえ考えてしまう…
 そんな人達も沢山いるのに、わたしは不謹慎にもそんな自身の安定した日々が、毎日が退屈で、退屈で、仕方がなかったのである。

 親の事業を引き継ぐ前は小学生時代からやってきていたバスケットボールを大学生時代まで一流のバスケット選手として続け、毎日朝早くから夜遅くまで練習をして充実し、またそして、激しく、厳しく、熱く、スリリングで、デンジャラスで、ドキドキするような日々を送っていたのだ。
 だが、突然、大学生時代に前十字靭帯断裂等の大怪我をし、プレイヤーとしては再起不能になり、それにより自堕落な生活等を送り、自暴自棄に陥ったのだが、紆余曲折、色々な事があってのバスケットボール指導者という新たな、再び、毎日が刺激的で、飽きない、充実した心躍るような日々を送れるようになったのであった。
 だがそれも約10年間、父親の死という突然な出来事で終わりを告げて、現在に至っているのであった。

そして今、毎日が平穏で、平凡で、退屈なのである…





 

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