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雨の降る夜は傍にいて…

第5章 秋冷え…

 35 わがままな想い

 彼、浩司の、結婚しているのにも係わらずほぼ家庭のしがらみが全く見えないフリーな生活が、逆にわたしにはあり得無いようなわがままな不満と、不安を生んできたのだ。

 その想いは本当にわがままな、天の邪鬼な想いなんだと思う…

 わたしも女であるからこの先の将来的な二人の関係を考えない訳ではない。
 だが、わたし達はこの『不倫』という禁断の関係なのにその不倫の罪悪感が沸かない日々に、逆にかえって不安が生じてしまっていたのである。
 そしてこの『不倫』の関係なのに安定感がある事に、不満も感じてしまっていたのだ。

 一年前は、あれ程に奥様と娘の存在感に苛まされ、焦れ、焦燥し、心を惑わせて、揺れていたくせに…

 これがひねくれた、わがままな想いなのは十分に理解してはいた。
 だが、なぜかこの安定感が不満であり、不安を生んでしまうのだ。
 そして、ついに自分の心の奥底に隠れている想いに気づいたのだ。

 わたしは刺激が欲しいのだ…

 いや、つまりは刺激が欲しかったのだ…

 そんな想いに気づいたのである。
 あの一年前と比べると、浩司とわたしの二人の関係は安定しており、そして彼には本当に愛されていて、甘えられ、わたしの全ての不惑な想いを受け止めてくれて消化できているこの日々が…

 退屈になってきていたのである…

 なんてわがままな想いなのであろうか。

 本当に自分が嫌になる…

 とても、この気づいた自分の本当の想いを彼には伝えられない。

 だが、刺激が欲しいのだ… 

 だからわたしは、自ら進んで奥様と遭遇する可能性の高いステーキハウスにも、定期的に来店していたのである。

 ある日、彼にこう云われた事があった。

『ゆりはさぁ、本当にステーキが好きなんだなぁ…』と。
 これは彼からの遠回しな、疑問の呟きであったのだ。

 ステーキを始めとする肉のメニューは彼のいつもいるスポーツバーにもあるし、味付けは基本的にはほぼ同じなのである。

 だから、なにも妻と会う確率のリスクを犯してまでステーキハウスに来店しなくても…
 と、彼は遠回しに伝えてきていたのだ。

 本音は刺激が欲しいだけ…
 という、本当の目的を彼に伝える訳にはいかなかったのである。

 だがしかし、そんな想いがあったのにも係わらず奥様とは遭遇できないでいたのだ…

 


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