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雨の降る夜は傍にいて…

第5章 秋冷え…

 39 刺激

 クリニック交流会が終わった直後に、奥様から声を掛けられた。

 努めて冷静なフリで返事をしたのだが、心の中では心臓が破裂するのではないかというくらいにバクバクと激しく高鳴っていたのだ。

 だが、これこそがわたしが欲し、切望していた刺激なのである…


「今日も美香をご指導頂いてありがとうございます、美香も凄く喜んでいて…」

「あ、いえ…」

 ドキドキ、バクバク…
 少し背中にも冷や汗をかいていた。

「それに、安藤先生にも紹介をしていただいて…」
 安藤先生とは、元全日本アンダー15のヘッドコーチであり、わたしの恩師でもある。

「いえ、それは、安藤先生から言われたので紹介したまでですから」
 かなり安藤先生は美香ちゃんを気に入ったようであったのだ。

「美香も本当に喜んでいて、それに田中香織先生からも…」
 田中香織先生とは、ミニバスから中学時代までのわたしの同級生である。

「美紀谷先生の昔のお話しとかを訊いて、先生に凄く憧れて、なんかネットで盛んに先生の動画集めて研究してるんですよぉ…」

「あ、はい、聞きました、それは少し恥ずかしいです」

「そんなぁ、私も先生のお噂を色々と伺って、身近にこんな素晴らしい先生がいたなんて…って、他のメンバーのお母さん達とも話していたんですよ」

 既に美香ちゃんは昨年から1年生なが、県選抜選手に選ばれて活躍しており新しい新県選抜チームのキャプテンに内定していた、そして娘のポジション、地位イコール親、母親の地位になるのである。
 つまりは県選抜チームの保護者の代表が、この浩司の奥様と云えるのであった。

「先生どうですか、今夜、ウチのステーキハウスで食事なんかは…
 よく、ウチのスポーツバーとステーキハウスをよく利用されてるって夫からも聞いてますし…」
 わたしは奥様に食事に誘われた。

 そして
『夫からも聞いてますし…』
 この言葉、奥様の優越感、わたしの夫…

 ドキドキドキドキ…

 バクバクバクバク…

 一気に心と胸の昂ぶりが高鳴ってきた。

 これだっ、この昂ぶり、この高鳴り、この焦れる様な焦燥感、そしてヒリヒリと湧き起こってくる背徳感に罪悪感…

 わたしはこの刺激を待っていたのだ、いや欲していた、切望していたのである。

「ぜひともいかがですか……」
 
 心が揺れる…
 
 


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