テキストサイズ

雨の降る夜は傍にいて…

第5章 秋冷え…

 68 理由 ②

 わたしは戸惑いを隠せないでいた…

「そんなことないですよ、だって元全日本アンダ15ーのヘッドコーチの安藤さんだって…」
 …みっき、いや、美紀谷先生と交流があるならもっと色々アドバイス受けた方がいいですよ、美香はみっきの現役時代にそっくりだし、更にその上の素質を持ってるから…と、そうまで仰っていて…

「あ、安藤先生が…」
 
「はい、それに安藤先生の推薦でアンダー15に選ばれたし…
 その安藤先生も美紀谷先生の事を太鼓判押してくれたし…」

「えっ、そうなんですか…」
 それは素直に嬉しい事ではあった。

「じゃあ美紀谷先生も元アンダー15だったのに、なぜ、地元の今の高校を選んだんですか?…
 先生にだって当時、色々スカウト来たんでしょう?…」

「あ、は、はい、ま、それは…」

 そうなのである、大学3年春の怪我で再起不能になるまで、わたしは全日本アンダー13の枠からアンダー20迄ずっと選抜されている、自分で云うのもナンなんだが、いわゆる全日本のエリート候補であったのだ。
 だからやはり高校も、大学も、かなりの数のスカウトが来たのであった。

 だけど、高校はこの地元の、今わたし自身が監督、教師をしている高校に入学したのである…

「なのに美紀谷先生はこの地元の高校を選んだ…
 どうしてなんですか…」

「そ、それは…」
 それは…
 今、現在も体調を患い、病気療養中の恩師である佐山先生が居たからであり、先生を慕ってであり、そして、親から、せめて高校までは寮生活ではなく親元から通った方が良い、との意見があったからであった。
 そしてわたし自身も高校迄は親元を離れたくはなかったのであるから…

「ほらぁ、うちも、正に、今の美紀谷先生と同じ考えなんですよ…」

 …美紀谷先生が居るから、先生にもっと指導して欲しいから
  せめて高校迄は親元から通って欲しいから…

「全く同じなんですよ…」
 わたしは、奥様のその言葉には全く反論できないでいた。

 自分がそうであり、全く同じなのであるから…

 そして、わたし自身も本当に高校時代は寮生活が嫌であったし、結果、しなくてよかったと思っているから…

「それに安藤先生も、その意見には賛成してくれていて…」

「えっ、安藤先生も…」

 わたしのもう一人の恩師の先生も賛成してくれているのか…



ストーリーメニュー

TOPTOPへ