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雨の降る夜は傍にいて…

第2章 春雷

 5 福マン

『たーちゃん…』

 たーちゃん…

「たーちゃん…」


「おっす、バスケ部っ」

「あっ、野球部っ、なに…」
 突然の激しい夕立に、外での野球部の練習が体育館内での室内練習に急遽変わったそうである。

「邪魔しないでよぉ」

「うるせっ」

 この第2体育館は基本バスケ部専用体育館であったのだが、たまに、こうした雨の時や、真冬時には2階部が野球部の室内練習場に変わる時があったのだ。
 そしてこの野球部の、木村ただし、は高校2年生の時のわたしの彼氏であった。

「じゃあ、スリーメンやるよっ」
 キャプテンから声が掛かる。

「じゃあね…」
 わたしがそう言うと

「あ、うん、今夜…な…」
 ただしが小さな声でそう言ってきた。

「う、うん…」
 わたしはそう返事をしながら、バスケ部の元へと走っていく。


「今夜な…」
 それは今夜、俺ん家で逢おう…
 と、いう意味なのである。

 わたしとただしは付き合い始めてこの春で約半年経つ。
 野球部の3年生の引退時期は夏の大会を持って切り替わる。
 ちょうどそんな時期にわたしはただしに告白されて付き合い始めたのだった。

 その夏までは野球部は約3年前に甲子園出場したが、最近はずっとベスト4から8止まりであった。
 そんな中、ただしは入学直後からユニフォームを貰い控えの外野手であったのだが、夏の大会にはレギュラーを獲り、活躍していたのだ。
 そしてこの春、ついに県大会で久しぶりに優勝し、関東大会進出を決めたのである。

 対するわたしはバスケットエリート、そしてバスケ部は県内敵なし、関東地区でも常にベスト4圏内の強豪校のエースでもあった。

「必ずレギュラー獲って、ゆりにつり合う男になるから、俺と付き合ってくれ…」
 そんな感じで告白されて、断り切れずに付き合いを始めたのだが、実際、ただしはわたしと付き合ってからは本当に大活躍をし、野球部内では無くてはならない中心選手になったのである。

 だからわたしは、野球部内で

 福マン、福女ゆり…

 と、呼ばれていたのだ。

 そしてわたしは時間の経過と共に、ただしのことを好きになっていた。

 いつの間にかにバスケット馬鹿のわたしの中で、いなくてはならない、心の支え的な彼氏となっていたのである。





 

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