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雨の降る夜は傍にいて…

第2章 春雷

 13 第一作戦

 この保健室へ誘い込む…

 その為にわざと体育の授業の見学届けを提出したのである、そして今や亡くなった兄貴と瓜二つの俺を見せ、昔の懐かしい思いを懐古させ、回顧させる。
 それが第一の作戦なのであった。

 見事にこの第一作戦は成功した…


 ゴロゴロ、ザザー…
 春雷の雷鳴が激しく鳴り響き、それに伴う雨が豪雨へと変わってきていた。

「でも…本当にあの頃のたーちゃんに瓜二つね…」
 そう呟き、目から涙をこぼしてきたのである。

「あ、ゆり姉ちゃん…」

「ご、ごめんなさい…
 驚きと、感動と、感激でつい…」
 そう呟いてくる。

「わたしもあの後色々あって、最近、涙脆くなっちゃってぇ…」
 そう呟きながら泣き笑いの顔をしてきたのだ。

 俺はその彼女の様子を見て思わず抱き締めたい衝動が湧いてきたのであるが、ゆり姉ちゃんははからずも女教師なのである。
 もし誰かに見られてしまう、という万が一の恐れがある、俺は必死に自制をする。

「でも…
 本当にたーちゃんみたい…」

「俺、兄貴より2センチ身長高いんですよ」
 
「もお、そんなの分からないってぇ…」
 泣き笑いから笑顔に変わった。

「ゆり姉ちゃんは、綺麗になった…」
 俺はつい、本音を漏らす。

「こら、何、禁断の言葉を…」
 完全に笑顔になった。

「それに、ゆり姉ちゃんはダメよ…」

「あ、そうか、じゃ、ゆり先生だ…」

「違うわよ、美紀谷、み、き、た、に先生でしょ」

「あ、はい、美紀谷ゆり先生…」

「うん、よし、他に誰かいる時はゆり姉ちゃんは無しよ…」
 ゆり姉ちゃんはそう云ってきた。

「うん、はい…」

 誰もいない時はいいのかなぁ…


「あ、そう、特進クラスってすごいね」

「えっ、あ、うん、お袋の為にも兄貴の分も頑張ろうかなって…」

「でも、野球部も…」

「うん、理事長が許可してくれたんだ…」

「そうなんだ、あの理事長がねぇ…」
 そんな話しをしていたら、保健教諭が戻ってきたのだ。

「じゃあ、ゆっくり休んでなさい…」
 ゆり姉ちゃんはそう云って保健室を出ていった。

 よし、とりあえず、第一作戦は成功した…
 

 ゴロゴロ、ザザー…

 春雷と豪雨は止む気配が無かった。
 
 そして俺の心の中にも、春の嵐が吹き始めてきていたのだ…

 ゆり姉ちゃん…




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