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雨の降る夜は傍にいて…

第2章 春雷

  36 唯一の心残り

 これが、唯一、わたしの心に残っている、不完全燃焼的な想いであったのだ…

 さっきの体育館の管理室での啓ちゃんに抱擁された時に、咄嗟にわたしの心に浮かんだ想い、これがそうなのである。

 そして唯一の心残りの想い…
 いや、青春の思い出として、完了できていない、少しだけの後悔な想い…

 ただしの死の後わたしは一心不乱にバスケットに打ち込み、これらの性的な欲情、欲望は一切封印した。
 そして、大学2年の春先のバスケット選手としての再起不能な大怪我により、ヤケになり、自暴自棄、自堕落な生活へと転落していき、そして当然の如くに男関係で淫れたのである。
 そしてその時にただし以来の次の男にカラダを許し、抱かれたのだが、ただしとの約一年間の毎週水曜日の夜の逢瀬により、ただ、性交、つまりは挿入のセックスをしていないだけでの手指、口唇による愛撫は経験していたから、いわゆる処女喪失的な感動や、感激的な感傷は一切感じなかったのだ。

 その代わりに感じた想い

 ただしに全てを捧げていれば…

 セックスをしていればよかったのに… 
 と、いう、後悔の想いだったのである。
 だからさっき、啓ちゃんを一瞬でもただしと錯覚、混乱し、冷静になった時に真っ先に浮かんだ想いが
 やっぱりただしに抱かれておけばよかった…
 だったのであった。

 そしてもう一つ
 抱かれなければ、わたしの青春は終わらない…
 後悔は終わらないのだ…と。

 それの為にも、この錯覚までしてしまう程に瓜二つのこの弟である啓ちゃんと

 するんだ…
 こんな欲情が湧いてきていたのであった。

 この啓ちゃんとする、セックスをする、抱かれる…
 これがわたし自身のただしの想いを乗り越える唯一の方法なのではないのか、そう心が囁き続けてきていたのだ。

 そしてこれは啓ちゃんの為でもある…

 野球部の加藤先生曰く

『今イチなんか、吹っ切れないモノがあるんだ…
 だが、兄貴のただしは突然、吹っ切れたんだ…』
 つまりはこれはわたしとの体験、経験、毎週水曜日の夜の逢瀬による青春の、いや、性春のエネルギーの爆発による影響が多大であり、おそらくこの啓ちゃんも、今夜がきっかけに吹っ切れる可能性が多大にあるのだ。

 そうよ、マイナスなことはないのよ…

 わたしはようやく開き直れた。





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