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雨の降る夜は傍にいて…

第2章 春雷

 51 大きな山

 ああやっぱり、ただしとしているみたいだわ…
 わたし自身が快感に昂ぶれば、昂ぶる程に、そんな錯覚の想いに陥りそうになっていくのである。
 いや、わたしはわたし自身の為に、既に、心の中ではただしとセックスしている想いにはなっていたのであった。
 ただなんとなくだが、もう、ただしという名前を呟いてもいけない想いがしていたのである。

 それは、わたし自身もそうなのであるが、この啓ちゃんも既にいない、亡くなっている兄貴、ただしの背中を必死に追い掛け、乗り越えようと足掻いている感じがヒシヒシとわたしに伝わってきていたからであったのだ。

 だからもう、この抱き合っている、愛し合っている今は、せめてただしの名前を、面影を、必死にわたしは消そうとしていたのである…

 だが、意外にも啓ちゃんにはさっきのフェラによる一度の射精が効いたらしく、快感に余裕が出来ている様に感じていたのだ。

 それなら、それなりに、わたしという女を、女のカラダを感じて欲しい…

 そんな想いで、わたしは必死に腰を動かしていった、だが、久しぶりの快感の昂ぶりに、ゆっくりしか動かせないのだ。

 そしてその啓ちゃんに生まれた余裕が、わたし達二人の間の禁断の問いを浮かべさせてきてしまったのであろう。

 それは、どの二人にもありがちであり、禁断の問い掛け…

 啓ちゃん自身のコンプレックスによる想い、そして自己欲求…


「ね、ねえ、ゆり姉ちゃん…」

「は、はぁ、ん、な、なに…」

 ヌチャ、ジュボ、ヌチャ、ジュボ…

 ギシッ、ギシッ、ギシッ…

「あ、あのさ…」

「あ、ん、ん、うん…」

「兄貴と、どっちが…」

「えっ…」
 思わず動きが止まってしまう。

 ドキッ…

 そうか…

 やはりまだ…

 わたし達二人の間にはまだ、ただしという大きな山が、啓ちゃんにとってのコンプレックスがそびえ立っているのであるのだ。

 でも、この山を乗り越えなくては…

 いや、啓ちゃんも、わたしも、乗り越えなくては…

 今夜のこの行為がムダになってしまうかもしれない…


 よし、いいか…

 啓ちゃんの為にも教えてあげようか…

 わたしは動きを止めて、回していた腕を緩め、啓ちゃんの顔を、目を見つめていく。

 そして、啓ちゃんにとっての禁断の問い掛けに応える為に、囁いていく…


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