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雨の降る夜は傍にいて…

第2章 春雷

 54 乗り越え、乗り超える

「そ、そうか…そうなんだ…」
 そして、すっかり理解した顔で、目で、わたしを、見つめてきたのである。

「うん…」

「…………」

「だから啓ちゃんは………
         もう、とっくに…」

「…………」
 啓ちゃんの目が輝いてきた。

「さっき、わたしに挿入れた事で…
 もうとっくに、たーちゃんを超えて…
 いや、乗り越え、乗り超えているのよ…」

「う、うんっ…」

「だから、どっちが…
 なんて、わたしにはわからないし…
       比べるなんてできないの…」

「あ…は、はい…」

「わたしにとっては……」
 今は、もう、たーちゃんじゃなくて、啓ちゃん、啓ちゃん自身なのよ…
 そう言い切ったのだ。

「もう、啓ちゃんしか見えないのよ…」


 でも、それは嘘であったのだ…

 啓ちゃん自身が、ただしと競うように、そしてわたしを、利用して乗り越えたように、わたし自身も、この啓ちゃんを利用して、7年前のたーちゃんを乗り越えたのである。

 つまりは、さっきの啓ちゃんとの挿入は、わたし自身にとっては、未知のただしとの挿入であり、啓ちゃんをただしに見立ててのセックスであり、そしてそれにより、未遂で亡くなってしまったただしという存在感をようやく乗り越え、乗り超えたのであった。

 ようやくただしとの昔年の想いを超えた、いや、超え、越えられたのである…

 ただ、啓ちゃんのプライド、自己欲求を満たす為に、満たさせる意味ても、もうただしという名前をわざと意識してでも出さなかったなのであったのだ。

「ゆ、ゆり姉ちゃん…」

「さあ…最後に…」
 わたしはそう囁き、今度は下に、仰向けになり、両手、両脚を開いていく。

「さあ、きて…
 そして、感じさせて…
 思いっ切り、突いてきてよ…」

 これで本当に…

 お互いが乗り越え、乗り超えられる筈なのである。


「さあ、啓ちゃん、きて…」







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