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片恋は右隣

第2章 ワンナイトじゃないんですか


ぐったりして呟くと、倉沢さんがお手洗いから持ってきたティッシュペーパーでわたしの体を拭った。

さすがにこの状態で放って帰るほど彼は鬼畜ではないらしい。

「平気? あんまり良くなかったでしょ·····がっつくと痛いとかって言われるから。 でも、止まんなくて」

少し申し訳なさそうに彼が詫びてきた。
激し過ぎて余裕がなかった。
あとは昔の彼とのギャップが大き過ぎる。

「いえ。 久しぶりだっ····たし····なんという·····か」

フローリングの床を見詰めつつ、のろのろと体を起こそうとした。
倉沢さんの顔を見たくなかった。

「それになんか·····ええと。 次はゆっくりするよ」

「……は?」

次って、嘘でしょ?

酔いも覚めた今のわたしが正しく反射的に拒否反応を示す。

「い、いやいやいや。 これっきり、酔ったはずみってことで!」

「人もセックスもじっくり付き合わないと分かんなくない?」

そういう問題じゃないと思う。
完全に起き上がり、とりあえずシャツを合わせて無意識に彼と距離を取った。
背中に廊下の壁があたる。

中腰になって片膝を立てている倉沢さんがなにか聞きたげな目でわたしを見てくる。
·····そこに何かの思惑やいやらしさのようなものは見当たらない。

あと、どうでもいいけど。
上半身裸の彼が色っぽ過ぎる。

逆三角形でナチュラルに逞しい肩とか。
着痩せするたちなんだろうか。

それから彼がぐるりと辺りを見回し、訊いてきた。

「·····絵、もうやってないの? よく賞取ってた」

リビングやキッチンに繋がるドアは開けっ放しだったけれど、倉沢さんはそこに踏み入ろうとはしなかった。

「え?」

洒落ではないけど、わたしが間抜けにそう聞き返した。


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