片恋は右隣
第1章 プロローグ
彼が自分の会社に入ってきて、しかも同じ部署に配属されてきたときはなんかの冗談かと思った。
地元での元同級生。
その人がフロア内のわたしと同じ部署で頭をさげた。
「倉沢 亮二です。 よろしくお願いします」
わたしが小学校のときに転校してきてからだから、小中高となんと十年。
長年の片思い相手だった。
諸々と、知りたいことや聞きたいことがあった。
彼は都会の私立大学に進んだはず。
優秀だった彼がなぜ地元に戻ってきたのか。
実家はまだ変わってないのか。
でも、聞けなかったし、
また、その必要はないことに気付いた。
彼の左手の薬指に、結婚指輪をみつけたから。
わたしの席の隣になった彼が挨拶をした。
「どうも、はじめまして。 三上さん」
───────はじめまして
彼はわたしのことなんて覚えていない。
「三上さんイケメンの隣! 羨ましい」
始業から五分。
普段あまり話したこともない、五つ下の女性社員からだった。
会社のチャットでこんなもん送ってくるなよ、正直そう思った。
「彼、既婚者みたいよ」
わたしがそう返したら返信は来なくなった。
迷惑なことに彼、倉沢さんの右隣には席がない。
そんなわけでわたしが彼に細々とした業務を教える羽目になった。
「三上さんすみません。 旅費の概算請求のやり方教えて貰えませんか」
初めての人にまさか、マニュアルだけ渡して終わりってわけにはいかない。
しかも最初から彼の役職はわたしの上なようだし。
さっきから、こちらに向けられている課長からの無言の圧も鬱陶しい。