片恋は右隣
第1章 プロローグ
「このシステムちょっと分かりづらいですから。 アカウント情報送られてきてます? それです。 ログインの間に利用マニュアルと業務フロー送りますね」
これ作るのに、わたしもプロジェクトに入ってたんだ。 などという雑談は避けた。
「ありがとうございます。あれ? 三上さん、言葉訛ってませんね。 もしかして僕とおなじUターン組ですか?」
「そういえば倉沢さんもですね。 これ、ここから行追加で承認請求するんですよ」
「なるほど」
深く話したら訊くだろうし。
深く訊いたら話さなきゃだろうし。
わたしはどちらも気が進まなかった。
『えっ、僕も二中だったんですよ』
『そうなんですか? わあ、偶然』
なんて空々しい会話が出来る自信はない。
だから話は最低限の業務事項に留めた。
マウスの上に置いてる彼の指が綺麗なのに目をとめた。
顔の造りがいいのは元々だけど、ついでにいえばお肌も綺麗。
彼は小学生のときからすでに格好いい男の子だった。
高校のときより鼻筋が通って、細面になった大人の今はちょっと近寄り難いほど。
横で倉沢さんにシステムの使い方を教えていると「あれ?」と思った。
彼が入力した東京からの赴任旅費は一人分。
普通なら家族分も請求出来るはずで。
「旅費間違ってません?」
「え、合ってますよ」
涼しげに彼が答えた。
……ということは、単身赴任。
ああ、うん。
一番関わっちゃダメなタイプだ。