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片恋は右隣

第3章 ちょっと先走りすぎじゃないですか


素直に指輪してたってことは、ひょっとしたら彼は言葉どおりに一途なのかな?
でもそのわりに彼女さん。自分が浮気してたんなら世話ないのよ。
もっとちゃんと捕まえとかないから、いまこっちは混乱してるんだよ。

そんな風につい、知らない人に対して心の中で愚痴を吐いた。

「南口でしたよね。 駅で待ち合わせません?」

物思いにふけっていると花邑くんが訊いてきたので顔をあげた。

「いいよ。 席だけ予約しとくね。 幹事役も大変だよね…よし、19時で二人、と」

ねぎらいの言葉をかけ、予約サイトに登録をする。
そうこうしているうちに、ちょうど昼休憩を報せる予鈴が鳴り、スマホから視線を外した。

「三上さん感謝。 あれ?」

花邑くんの顔を向けた方向から、知った声がしてわたしの背中に再び緊張が走った。

「三上さんと昼飯の約束してて」

「そうなんすか? んじゃ、おれはこれで」

いや、倉沢さんとそんな約束はしていないよ。

彼からみて後ろ向きの位置にいたわたしは振り向く勇気さえない。
なんというヘタレか。

「倉沢さん? わたし、お昼は」

お弁当、そう言おうとして今朝は作り忘れてたことに気付いた。

「昼ぐらい付き合ってよ。 打ち合わせとか嘘ついた罰で」

「…………」

そろそろと彼の方を振り返る。
休憩室や彼の立ってる廊下には誰もいない。
そして彼に怒ってる様子はない。
そもそも怒られる覚えもないけど。

「……ええと」

とはいえ。
社内で変な会話をするわけにもいかない。
……ので、わたしは仕方なく倉沢さんとランチに行くことにした。



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