片恋は右隣
第4章 幸せになったらダメなんですか
****
──それから予定どおり二人で出掛け、倉沢さんの用事で市役所へ寄ったのち、街へ向かった。
地元なのだから、お互いに勝手知ったる場所ではある。
それでもここに戻って間もない彼は「あの店なくなっちゃったんだね」「どんどんチェーン店が増えてくな」などと、歩きながら感想をこぼしていた。
「おれの戸籍謄本とか見なくても良かったの?」そんなことを聞いてくる倉沢さんに「信用してますから」と答えると、そっか、と彼が微笑んだ。
天候に恵まれた晴れやかなその日は物陰に入れば残暑も気にならかった。
わたしは見慣れたはずの場所を、自然と彼と同じ目線でみるように歩いた。
例えば中学時代の行きによく寄った今は無いパン屋さん。
おなじくローカルなショッピングモール。
高校になると学生のデートスポットで有名だった、つつじの綺麗な公園、受験のときに利用した図書館。
今さらのようにそんな場所を郷愁を胸に置いて倉沢さんと散策した。
今ここに居るこの場所に、数日、あるいは数分違いで自分たちがすれ違っていた昔日を思うと、いちいち立ち止まり、まんべんなく辺りを見て回りたくなる。