片恋は右隣
第5章 わたしを愛してくれるんですか
「おれの前ならいいよ。 美優の悲しいときの泣き顔はまだみたことないし、っていうか、さっきの思い出してまたヌケそ……いや、たくさん優しく慰めてあげるよ。 美優の悲しみはおれの悲しみだから。 ん、美優?」
「もうやだ! わたし実家に連絡して帰る!」
この際、親と不仲でもなんでもいい。
これ以上この人とここにいたら、わたし頭おかしくなっちゃう。
跳ねるように廊下の入り口にあるバッグに移動する。
ゴソゴソ中を探ってると背中に気配を感じ、倉沢さんに腕をやんわりとつかまれる。
「逃げらんないって言ったでしょ? 親御さんと会うのはもう少し先にしようよ。 いまうちはこんな状態だからさ。 それならちゃんと部屋着貸してあげるし、スカートも明日、おれがクリーニング出しに行くから」
どうやらここは彼なりに折れているらしい。
わたしなんかに好意をもってくれてるらしい倉沢さん。
「ぐぐ……」
自分はそんな彼に、今後は優しくすると決めたことを思い出した。
「だからご機嫌直して一緒に過ごそう。 恋人になって初めての週末だし」
整って逆に冷たい印象を与えそうな目元が緩み、優しく微笑みかけられる。
そんな彼と『恋人』というパワーワードに今さらながらに顔が熱くなった。
と同時に、肩の力が抜けそうになる。