恋人は社長令嬢
第5章 我慢するのはお互い様
少し弾けば、注意ポイント。
また弾けば、注意ポイント。
それでまだ一曲も、まともに弾けていないのだ。
いわゆる、スパルタ。
”人はみかけによらない”という言葉を、改めて知る梨々香だった。
「そんなに、レッスンきついのか?」
瞬は鏡の前で、ネクタイを締めている。
日曜日も仕事だ。
「う、ううん……そんなにきつくないけど……」
「けど?」
今まで、自分はそこそこ演奏が上手いと、思っていた梨々香。
だからこそ調子に乗って、プロを目指そうなんて考えてしまったのだ。
それがこの二週間で、そのどこから来たのか分からない自信が、ものの見事に打ち砕かれている。
梨々香は膝を丸めた。