鬼の姦淫
第1章 血のおくり花
そんなつい半年ほど前のことを頭のなかに思い浮かべていたら、自分の顔に笑みが浮かんでいた。
いつの間にか校舎裏へとたどり着いたらしい。
もう少し目線の先に見えるあの建物が若林くんの家だろうか。
そう思い、私は通り過ぎた小学校の方向に目を向けた。
フェンスの外に家よりも小さな民家のようなたたずまいの建物があった。
壁にツタの絡まった校舎とその建物を見比べた。
建物の周りには砂利が敷いてあり、荒れた様子はなかった。
─────自然と足がそこに引き寄せらせた。
愛理はお人形のように可愛らしい外見以外は普段、私よりも物静かな子だった。
聞き上手で、自分への悪意は眉をひそめて通り過ぎ、ただ理不尽なことや弱い者を守ろうとする負けん気は人一倍だった。
若林くんと惹かれ合ったのは、私には自然なことのように思えた。
芯が強いところが似ていたから。
そこに自分が割り込むなんて思いもよらなかったし、それはもちろん今もだ。
愛理があんな形でいなくなり、私の中でなにかが変わった。
彼女が一番許せないようなやり方で彼女自身が踏みにじられた。
『怒りのほうが勝ち過ぎたら、泣こうにも泣けないんかな』
あの日若林くんが言ったとおりかもしれない。
実際に、私はあれから一滴の悲しみの涙も流してない。
いまの私はおそらく、静かな怒りのなかで生きている。