鬼の姦淫
第5章 地下の墓
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「ああ、萌子。 ちょうど聞きたいことがあった」
こんな風に、「外は晴れてるか」みたいな感じで気安く声を掛けてくるにしては、時間が経ちすぎている。
そもそも、会ったのも一度だけだ。
「教育者になったんだろう? よく頑張った」
そうやって畳敷きの向こうから親しげに微笑みかけてきて、私は安堵すると同時に泣きたくなる。
なぜこれが、若林くんじゃないのかと。
「萌子?」
仲正さんが驚いた様子で立ち上がる気配がした。
……私はどうして愛理と彼を同時に失う必要があったんだろう?
「綺麗になった。 ……また会えて嬉しく思う」
両頬を包んだ手のひらで私の顔を上に向かせて、数度唇を彷徨わせる。
そのあとに優しく置くように降る口付け。
湿った膜の張った自分の視界に、伏せられた仲正さんのまつ毛がぼんやりと映っていた。