鬼の姦淫
第2章 社の守り人
「────ああコラ? おい、そこの。 それになんの用だ」
荒い口調でそう言われ、驚きに背中がビクッと反応した。
そろそろとその方向へ振り向いた。
長身で見たことのない壮年の男性だった。
シワのあるシャツはきちんとした身なりとはいえない。
苛々した表情からして、こちらに好意的な様子とは言いがたい。
痩せているせいか、妙に瞳の光が鋭くみえた。
この人が父の言っていた、『住みついた変な奴ら』のことだろうか?
「ご……めんなさい。 あの建物が綺麗にしてあったので、不思議に思って。 ここの方ですか?」
男性の表情から、ほんの少しだけ警戒心が薄れたような気がした。
私は道の途中の出入口の方向に後ずさり、その人物と距離をとった。
「私、ここの小学校に通ってたんです。 あの時は────昔この祠は小さくて、傷んでましたよね。 つい、懐かしくて」
「へえ……ここの学校に。 そうなんか」
すると男性は雰囲気をやわらげた。
なぜか私の代わりにどこか懐かしげな目つきをした。
けれどもそれは一瞬で、また私と目を合わせると、元の隙のない顔でこちらを見据えた。
「だがなあ、それにゃ近付くな。 だいたい、オレらんとこになんの用向きだ? お前は町の人間か」
さっきから脅すような物言いに、自分の体が強張る。
町にはこんな口のきき方をする人なんていない。