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鬼の姦淫

第2章 社の守り人


でも、これが愛理なら、きっとこんなことで怯んだりしないんだ。
こくんと唾を飲み込んだ。

「人に会いに来たんです。 若林さんのお家ってご存知でしょうか」

「若……」

彼の苗字を出すと彼の鋭い目に動揺がみえた。


「────佐伯。その方はわたしの所の客人のようだ」

彼の背後から聞こえた静かな声に、手前の人の体が揺れる。

「お、お社さま」

「そんな旧い呼び方はよしなさいといつも。 その制服……義隆の知り合いか?」

男性の向こう側から現れたその人をみて一瞬、言葉を失った。

姿の良い男性だった。
日本人のわりには彫りが深く、肌の色も白い。
品のある趣きが若林くんと似ている。

「無為に人を脅かすのは止めるようにと言っている。 またあそこへ戻りたくはあるまい」

「そ、そんな·……オレはただ」

佐伯と呼ばれた男性のが心底弱ったようにが口ごもる。
その様子をみてもう一人の方がふっと口の端をあげた。

「……冗談が過ぎたか。 お前の気持ちは分かっている。 もうそろそろ煩い子らが戻る頃だろう。 不器用な五嶋の手伝いでもしてやってくれるか」

ぴんと背筋を伸ばし、痩せた男性が緊張した面持ちで「わかりやした!」と返事を返し、道のさらに奥へと走っていく。

そんなやり取りをぽかんとして見ていた。

その人がふいと私の方を向き少し茶色みがかった髪が簡単に風になびく。
これもまた背が高い人だが、ゆったりとした真っ白なワイシャツを羽織っている。


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