鬼の姦淫
第4章 記憶
「若林くんってわたしのこと、どう思ってるのかなあ……」
あんまり分かりきったことを愛理が言ってくるので、私は部活で使ったジャージを畳む手を動かしながら流すような受け答えをした。
「なに、いきなりそんな話」
白くて丸い頬っぺたを腕に押し付け、どこか浮かない表情で彼女が机に突っ伏していた。
うーん、うーんと間を置いて唸ったのちに、「だって若林くん、付き合っててもなぁんにもないんだもん」とポツリと言う。
五秒ほどかかり、私はそれがなんの事なのかを察した。
でも、『なんにも』とはどの辺りなんだろ。
当時その手の経験も見込みも皆無だった私は内心返答に困った。
「えっと…あんまりそういうイメージないよね……もしかして、照れ屋なのかな?」
そういえば私の前で、彼らがスキンシップを取ってるところを見たことない。
ただ彼の優先順位としてはいつも愛理が一番で。
彼女を真ん中に置いて、左右に私と若林くんがいる、そんな構図だった。
それよりも、愛理がそういう類いのことを考えてる。 その方が私には意外だった。
ドラマや映画のラブシーンでさえも、目を逸らすタイプの子だったから。
それほど愛理は若林くんが好きということなんだろう。
そう思うとまるで自分のことのようにドキドキした。
恋の力って偉大だ。