鬼の姦淫
第4章 記憶
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たくさんの虫がいる。
実際にはいないような形状の虫は蟲と形容するほうのが相応しいのか。
とにかく、大小さまざまな形の蟲がそこで蠢いていた。
一人の少女にたかり、彼女の姿は見えない。
黒い塊が積もった枯葉の上に彩波を描き
餌の上を移動し
穴や隙間に入り込み
皮膚を、肉を、食んでは犯す。
まるで私は映像のようにそれを観ていた。
声が出なかった代わりに────口からうめきが漏れた。
それが視界からフッと消え、しばらくして、なにかが唇にあたる感触がした。
隙間に運ばれてきたのはぬるい液体のようだった。
喉が渇いているときのごく自然な反応で、スポイトみたいに流れてくるそれを、私はこくんと嚥下した。
「まだ飲むの」
「…………」
「飲ませてもらった礼は?」
「…………」
お礼?
まるで若林くんみたいなことを言う。
「……仲正に呼ばれたのか」
そうだ。
私の頭を撫でるこの感触は仲正さん?
ああ、気持ちいいな。
他人に触れられたのはいつぶりだろう。
「────裏切り者」
そこでまたプツリと私の意識が途切れた。