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恋、しません?

第1章 第一話 男友達の家政婦致します

 雨は、いつだって美味しそうに、そして、とても幸せそうにお酒を飲む。
 雨がそうやって飲むのを見ているのを菊子は好きだった。
「何? じっと見て」
 菊子の視線に気が付いた雨が、にやりと笑いながら訊く。
 見ていた事に気が付かれていた事に菊子は何故か慌ててしまう。
「別に。良い飲みっぷりだなと思っただけです」
 そう言って、菊子はグラスに口を付ける。
 しゅわりと炭酸が菊子の口に中ではじける。
 それは、菊子の少し上がった熱を冷ましてくれた。
「ほら、ピザ食べな」
「はい。目黒さんも食べて下さい」
「うん、じゃあ、一緒のを食べようか」
「え、別に良いですけど……」
 ピザはクワトロピザ。
 バジルのピザに、サラミのピザ。
 きのこのピザに、ホウレンソウのピザ。
「目黒さん、どれがいいですか?」
「菊子の好きで良いよ」
「そんな事言われても困ります。目移りしちゃって決められない」
 菊子の目は、ピザの上を時計回りにさ迷った。
 そうやっている間に、雨が、「ピザが冷めちゃうよ」と急かしてくる。
「それなら、目黒さんが決めて下さい」
「いや、俺はレディファーストを守りたいんだ」
「何ですか、それ」
「俺のポリシー」
「そんなポリシーが目黒さんにあったなんて知りませんでした」
「おかしいなぁ。ちゃんとアピールして来たと思ってたけど」
「全然通じて無いですよ」
「ははっ。じゃあ、これからって事で、早速のレディファーストを堪能してくれ」
 菊子は、やれやれ仕方ないな、とため息を漏らした。
「うーん、うーん」
 ピザを見ながら声を上げ続ける菊子。
 どれにするか中々決まらない。

 何だかんだって初めの一口が肝心なんだから。

「うーん……」
 散々迷った挙句、どうしても決められなかった菊子は目を瞑ってピザを指さして決めた。
 菊子の指の先には、きのこのピザが示された。
「これで決まり?」とは雨の台詞。
「はい」
「じゃあ、いただきます」
 雨が手を合わせる。

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