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恋、しません?

第1章 第一話 男友達の家政婦致します

「まぁ、せっかくなので、このエプロン、ありがたく使わせて頂きます」

 仕方ない。

 雨が自分の為に選んでくれた物なら趣味に合わずともありがたく受けようと菊子は決めた。
「ん、菊子。本当に似合ってるよ。いつも堅苦しいファッションしてるから、たまにはそういうのも良いよ。可愛くて」
「はいはい、さようですか。では、私は、片づけを致しますね」

 もう動揺なんかしない。

 菊子は雨に向かってやけに丁寧にお辞儀をすると、キッチンへ向かった。
 菊子を見送る雨はどこか愉快そうで、それが菊子には悔しいのだった。





 片付けを済ませた菊子はリビングダイニングで綺麗になったテーブルの上に満足そうに頬杖をついている雨の側にいた。
 雨は、片づけられたテーブルを盛大に褒めた。
「そんなに褒められる事です?」
 菊子が訊ねると雨は、「まだ慣れないだろうにここまでやってくれるなんて偉いよ」と感心して答えた。
 確かに、菊子は洗った食器の置き場も迷ったし、テーブルを拭く布巾もどれを使って良いやら悩んだ。
 しかし、それは雨に訊けば教えてもらえて即解決だった。
「目黒さん、随分甘いんですね。もっと虐められるかと覚悟して来たのに」
「飴と鞭って言うだろ。これから虐めてやるよ」
「お手柔らかに」
 真顔で菊子が言う。
「バカ、冗談だ」
 雨が急いで返す。
「冗談なら間に合ってますわ。あの、目黒さん、本当に冗談は後にして、これから私は何をしたら良いんでしょうか?」
 昼ご飯も済んで、その片付けも終わった。
 故に、家政婦としては、これからずっとここで雨と話をしている訳にもいかないだろう。
「せっかちだな、菊子は。そんなに仕事がしたい?」

 それを雇い主が訊くか?

「はい。目黒さんの冗談にも飽きて来たので」
 半分本気で菊子は言ってみる。
「酷いな。仕事ね。えーっと、これから俺と買い物に行ってもらおうと思って」
「買い物ですか」
「うん、我が家の冷蔵庫が今、大変な危機でさ。食料調達しなきゃまずいんだ」
「買物なら一人で行って来ますけど」
 あっさりと菊子が言う。
「でも、菊子、この辺の事、まだ良く分からないだろ。スーパーの場所、分るか?」
「スマホで調べれば直ぐですよ」
 これまた、あっさりと菊子が言った。

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