I‘m yours forever
第5章 美月は何も知らなかった 後編
「公証役場において、公証人に作成してもらう遺言書だ。費用はかかるが、法律の専門家である公証人が作成する為、遺言書が無効になる可能性が低い。」
「自筆では無効になる可能性が高くなってしまうんですか?」
「そうだ。極力お前に私の全財産を相続させる目的で作った。その遺言書が無効になれば作った意味が無い。」
「え?ぜ、全財産?!そんな事出来るんですか?」
「いや.... 遺留分を貰う権利のある人、例えば私の義母や父が請求すれば、遺留分にあたる価格を渡す羽目になる。だが、遺言書を工夫すれば、ある程度の効果は期待出来るそうだ。」
「.............ありがとうございます。私が知らない間に、沢山動いて下さって...。でも、実際その引き出しを開けるような事にはなりたくないです。」
「分かっている。万が一だ。俺も早死にするつもりは無い。........すまない大分長くなってしまったな。疲れただろう。もう寝なさい。」
「お話は終わりですか?」
「そうだ。これでお前への隠し事は一切無い。」
「!そうですか。ありがとうございました。」
「嬉しそうだな。」
「嬉しいに決まってますよ。また一つ理想の夫婦の形に近づけたみたいで。」
カウチソファーに深々と座ったままの彼に私はそう言うと、微笑みを浮かべた。
すると彼は即座に「俺は夫婦ではないと思っている。」と言い放つ
彼の爆弾発言によって、私の脳内はすっかり混乱に陥った。だが彼に向かって「どうして?」と問いかける度に、何故か彼の頬が朱色に染まっていく。
私の肩を抱き寄せていた彼の腕もいつの間にか離れて行ってしまった。
「....お前を女神だと思っているからだ。」
頬を手で隠し、そう途切れ途切れに返答してくれた彼の言葉に、愚鈍な私はやっと意味を理解する。
まるで彼の羞恥が伝染してしまったかのように急激に自分の頬が火照るのを感じた。
「.....好きに飼いならせ。私はお前のものだ。」
黎一さんの無理矢理押し殺した声が、静寂な室内に響く。
隠し忘れた彼の耳は先端まで真っ赤に染まっていた。
私はきっとこの日を一生忘れる事が出来ないだろう。
そう私は確信したのだった。