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主治医との結婚生活

第7章 奏真の話


「約束… よ…?」


ハッとして 夢から醒める。

また あの夢…。


隣で眠る彼女の髪の毛を梳きながら
何とも言えないバツの悪さに襲われる。


大学1年の夏に 帰省した時に出会った女の子。
名前は 川名 明花 
今でもはっきり覚えてる。

ひと夏を一緒に過ごしただけの女の子。
なのに 彼女は 今でも 僕の心に住んでいる。


明ちゃんは僕より8歳も年下の小学生だった。

体が弱くて、療養で 田舎の実家の診療所に入院していた。
たまたま帰省をしていたので
脱走癖のある彼女のお目付役を父親に言い渡され、
関わる事になった。

サラサラボブのストレートヘア。
透き通る様に肌が白くて 細かった。

瞳が大きくて 形の良い鼻に唇。

きれいな子… だと思った。

きれいな見た目とは裏腹に…
明ちゃんは 思っていることをズバズバとストレートに言う子だった。

ある意味 解りやすくて 裏表がない。

僕の事を気に入ったらしく
あの手この手で 気を引こうと 困らせてきた。 

病室から脱走されるのは毎日で、
持っていた本を隠されたり、
資料を紙飛行機にして飛ばされたり
風船をいきなり割って脅かされたり

宿題を見て欲しいと言われて見てあげれば、
合ってたからキスしろだの…

とにかく めちゃくちゃな子だった。

でも そのイタズラはどれも 
最後には大笑いしてしまう…

不思議な魅力のある子だった。

笑うと可愛くて 

妹みたいな 愛しい存在 になっていた。

だから

明ちゃんが 僕を好き と言ってくれるのは 
光栄な事だったけど、
それよりも 幸せになってもらいたい と思った。

そんな明ちゃんが

「ねぇ 先生? もし私がまた先生の前に現れたらキスしてよ…。」

怖いくらい真剣な顔で言ってきたから、困って…

「…そうだなぁ…。 再会した時に明ちゃんが
可愛くなってたら…」

そしたら 明ちゃんが 泣きながら 
キスをしてきて…
「約束… よ…?」

そのキスから 痛いほど 想われている事を感じて… 
茶化せなかったし、どうしてあげたらいいのか
わからなかった。

だから 怖くて 帰省も出来なくなった。

もし明ちゃんにまた会って 
もう1度 あの瞳に 好き だと言われたら…


ふるふると首を振って

彼女に抱きつく。

 

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