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主治医との結婚生活

第3章 再会

再会した時の事は 今でも覚えている。

新人として先輩看護師の後について
挨拶回りをしていた。

診察室で診療の準備中だった奏真先生の前に、
何食わぬ顔で進み出て、自己紹介をする。

お辞儀をし、顔をあげると

奏真先生はまさに 鳩が豆鉄砲でも食らったよう… 
と表現するに相応しい勢いで固まった。

「…? 大澤先生?」
先輩看護師の心配そうな声に 我に返った先生は
慌てて私に挨拶をした。


先生は自分を覚えてくれていた…!
あの時はその嬉しさを、興奮を、押さえる事が
本当に大変で…

深呼吸してから 看護業務に勤しんだ。


先輩看護師について回り、メモを取り、
早く仕事に馴れる様に努力した。

たまの失敗やスタッフ間での大笑い…

そこに先生が混じる事はなかったけど、
遠くから 温かい目で
見守って貰えていると感じていた。

先生は相変わらず優しくて、穏やかで、患者さん
に慕われていた。

人として 医療人として 尊敬した。


仕事を始めて3ヶ月。

たまたま患者さんが途切れて、
診療室で先生と2人きりになった。

「大澤先生…」
呼んでみるけど、

「ん〜? 何ですかぁ?」
パソコンにカルテを入力しながら
振り向いてもくれない。

「…再会 出来ましたね !」

私の言葉に先生の手がピクリと動いてから
止まった。
それから やっと 私を見てくれた。

「先生は彼女…奥さんはいないんですか?」
私の質問を

「さぁねぇ?」
と言って先生がはぐらかす。

私は先生の両頬を押さえて、先生の顔を
マジマジと確認する。

「… 居ないんだ!」
そう言って私が喜ぶと
先生は短く溜息をついた。

「バカな事を言ってないで… 
仕事に集中してください?」

冷たくあしらう先生の唇を 私は奪う。

「…っ! 明… ちゃん…っ!」

先生は私を引き剥がすと
あの時みたいに真っ赤な顔をして唇を押さえる。

「バカじゃない…!
先生を追いかけてきたんだもん!」

私の言葉に先生は心底困り果てた顔をした。

「明花ちゃん。僕はオジサンですよ? 
年相応の若い子と素敵な恋愛をして、
幸せになって欲しいと願ってるよ?」

私の顔を覗き込んで 言い聞かせてくる。

「嫌です…! 先生がフリーだと分かった以上、
好きになって貰えるように頑張ります。」

先生は頭を抱えて暫く蹲った。



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