テキストサイズ

孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第33章 出産

まだ吸い付く力はないけれど、なにか大切なものを見つけたような、かすかに驚いたような顔をしたように見えたのは私だけだろうか。

これからこの小さな赤ちゃんを私が育てていくんだ、そう思うと胸の中にじんわりと熱いものが満ちていく心地がした。




母乳はすんなりと、よく出た。

赤ちゃんも元気に上手に飲んでくれるようになり、体重はみるみる増えた。帝王切開の傷の痛みはあるものの、産後の肥立ちもよく、私は予定通りに退院できた。

退院の日には遥人さんとおじさまが迎えに来てくれた。

マンションに到着すると、子供部屋を見て私は目を見開いた。

優しいブルーで統一されたインテリア、ベビーベッドの横には授乳用のロッキングソファ。

おむつ替え専用ベッド、着替えがびっしり並んだ箪笥、ベビーモニター、私が仮眠をとるためのシングルベッド、ウオーターサーバー、おむつ専用のごみ箱、産褥期に必要なあらゆるものがそろった落ち着いた可愛らしい空間に変身していた。

「香さんとおじいさまが手伝ってくれたんだ」

遥人さんは照れ臭そうに言った。

壁には赤ちゃんの名前が飾られている。『耀(よう)』二人で考えた名前だ。

赤ちゃんに呼びかけてみる。

「耀ちゃん」

自分たちでつけた名前で呼ぶのはくすぐったかった。



遥人さんは相変わらず学業に忙しくしていたけど、香さんのサポートもあって、私は順調に赤ちゃんのお世話に専念できた。

香さんは母乳の出がよくなる料理を作ってくれて、私が仮眠をとる間赤ちゃんを見守ってくれ、内祝いの手配まで手伝ってくれた。



少しずつ余裕ができると、耀が眠っている間に読書したり音楽を聴く余裕も生まれた。

ある時、授乳後にお腹いっぱいになった耀を寝かしつけ、ベッドでまどろんでいると、そっと扉が開かれ、おじさまが現れた。

「おじさま、どうされたの」

「急に打ち合わせがキャンセルになった。ちょっと顔が見たくて」

「耀ちゃんは今寝たところよ」

「今日は黎佳の顔を見たくて来たんだ」

「おじさま。見ての通り私は元気よ」

「よかった。きみが無事で本当によかった」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ