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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第34章 碁盤攻め

「嬉しい。ありがとう。なんて幸せなんだろう」

目尻に涙が滲む。

「大げさだな。ただの旅行じゃないか」

私は遥人さんにしがみついた。この人を幸せにしなくては、と思った。



新幹線のグリーン車。

私の隣には耀、通路を挟んだ隣に香さんが座る。

前の席に座ったおじさまと遥人さんは、いつになく楽しそうにおしゃべりしている。

耀が生まれたことで、二人の距離は近くなったみたいだった。

私は彼らの絆を深める存在をこの世に生み落とせたことを誇らしく思った。



新幹線を降りてからはタクシーで観光地を巡った。

青空を背にして深みのある黄色や赤の紅葉が眩しい。

「空を見上げるのが久しぶりのような気がする」

私が言うと香さんは、ほらね、とばかりに私の顔を覗き込んだ。

「そうでしょう。気づかないうちに、耀ちゃんで頭がいっぱいになっているのよ。たまにはきれいな景色に触れて、自分を解放しないとね」

香さんは言って、耀と手をつないで歩いてくれた。

私は遥人さんと並んで歩いた。

遥人さんが横で揺れる私の手をそっと取った。指を絡ませ、優しい眼差しで私を見下ろした。

出会った頃は少年だった遥人さんは、いつの間にかぐんと背も伸び、祖父であるおじさまからの遺伝だろうか、男性の色香すら漂わせるようになっていた。

観光を楽しんだあと、旅館にむかった。

部屋は並び合った3つの部屋に案内された。私は遥人さんと耀と三人。両隣がそれぞれ、香さん、おじさまの部屋だった。

どの部屋も同じ二人部屋なので、香さんはゆったりできると嬉しそうだった。

おじさまが少し寂しそうな顔をすると、香さんが快活に笑ったので、遥人さんも私もつい笑ってしまった。


食事は別室で全員そろっての夕食。

おじさまや香さんが耀をみてくれるおかげで懐石料理を堪能することができた。

贅沢な料理に、私はお腹も心も満たされる思いがした。

向かいの席では嬉しそうに耀とおしゃべりするおじさまと香さん。隣りではそっと手をつないでくれる遥人さんがいる。この上ない幸せな時間だった。

食事を終えて部屋にもどり、ドアを開けようとしたところで、香さんが耀を抱きあげた。


「耀ちゃん、香おばちゃまは今晩一人じゃ寂しいから、一緒に寝ましょう」

「香おばちゃまのところにお泊り?」

耀は目を輝かせて香さんと私を交互に見た。

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