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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第42章 花芽・1

春の日差しに、白のニットが光って見えた。浅木さんは私を見上げている。遠目にも、微笑んでいるのが分かった。

胸の奥をくすぐられるような心地を抑えながら、サックスブルーのワンピースを着て、ロイヤルブルーのカーデガンを羽織った。

冴えない顔色を隠すためチークを入れ直したところで、浅木さんがドア前までやってきた。

玄関を開けると、かすかにミントが香る冷たい風が吹き込んで、廊下を抜け、リビングで淀んでいた空気をベランダの外に追い出した。風を追うように振り返ると、ベランダ窓の白いカーテンが揺れて、私の躍る心を真似してからかっているように見えた。


「ドライブしませんか」

玄関前に立つ浅木さんはそう言って微笑んだ。

温かくなつっこい眼差しが、以前のやりとりでわだかまっていた気まずい空気をすぐに解かしてしまう。




「行きたいところ、ありますか?」

車に私を乗せた浅木さんは、シートベルトをしめながら助手席の私に尋ねた。

「花が、咲いている場所…」

「わかりました」

浅木さんは言うとギアをドライブに入れた。


首都高を抜け、湾岸線を通り、しばらく走ると海が見えた。

道路沿いにはまだ菜の花が咲いていて、青く光る海を背に黄色が眩しかった。

太陽の光を砕いてちりばめた海面は、私の胸の内を照らすようにきらめいていた。


海に目をやれば、自然、運転席の浅木さんが目に入る。

鼻筋の通った美しい横顔に思わず見とれた。

鼻の下から、少し捲れた上唇までの曲線が、妙に愛くるしい。

この唇が私に触れたのだ、と思うと心臓が激しく打った。

顔が熱くなりそうで両手で頬を挟んだ。

「奥様?大丈夫ですか?」

ちらっとよこす視線はまっすぐで、包み込むように優しい。

「休憩がてら、海をみましょう」

浅木さんはビーチに沿ってヴィラが立ち並ぶ一角に車を停めた。ヴィラの中央の建物の受付を通りぬけると、海が見えるテラスが広がった。

海風が吹くテーブル席で、飲み物をオーダーする。日帰りのスパを楽しめる施設らしいその場所は、まるでバリのリゾートに来ているような気分になった。

太陽が海を照らしている。数えきれない光のかけらを浮かべた海面で、サーファーたちの影が上下に揺れていた。

「あれ?」

波から砂浜に駆け戻ってきた二人の人影に目をやり、私は思わず立ち上がった。

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