孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す
第4章 参観日
夜になってもスミレちゃんは戻らなかった。
私は顔を洗い、歯を磨き、ソファに寝転んだ。なぜだか胸がしくしくと痛む。
教室の後ろに立つスミレちゃんを思い出す。まるでステージにたつアイドルみたいだった。
参観に来てくれなかった去年よりも一層スミレちゃんが遠く感じたのが不思議だった。
そこにドアが開く音がして私は跳ね起きた。
「スミレ、黎佳」
歌うような声が聞こえ、おじさまが大きな紙袋を掲げて部屋に入ってきた。
「なんだ、スミレはいないのか…せっかくたくさん買ってきたのに」
おじさまは言って袋から出した大きな箱をテーブルに置いた。
「黎佳、見てごらん。さん、にい、いち、じゃーん」
ふたを開くとずらりと色とりどりのアイスクリームが並んでいた。
「わあ、すごい」
私は身を乗り出して箱を覗き込んだ。
「縦に5列、横に6列並んでる。そしてさらに1個。さあ、全部で何個でしょう」
「ごろくさんじゅう、それに1たして31!」
「計算早いな」
「簡単だよ」
「さすがは俺の黎佳だ。かしこい」
「黎佳はおじさまのじゃないけど?」
「そうか。…黎佳は、目の前に31種類のアイスクリームが並んでいたら、そこから1種類選べる?俺には無理だ、一つに絞るなんて」
楽しそうなおじさまは、部屋に沈んでいた暗い空気を蹴散らすようだった。
「いい?黎佳、一つに絞ることなんてないんだ。ほら、全部一口ずつ食べてごらん。いろいろな味があることを知っている方が、世界は広くなる」
私は顔を洗い、歯を磨き、ソファに寝転んだ。なぜだか胸がしくしくと痛む。
教室の後ろに立つスミレちゃんを思い出す。まるでステージにたつアイドルみたいだった。
参観に来てくれなかった去年よりも一層スミレちゃんが遠く感じたのが不思議だった。
そこにドアが開く音がして私は跳ね起きた。
「スミレ、黎佳」
歌うような声が聞こえ、おじさまが大きな紙袋を掲げて部屋に入ってきた。
「なんだ、スミレはいないのか…せっかくたくさん買ってきたのに」
おじさまは言って袋から出した大きな箱をテーブルに置いた。
「黎佳、見てごらん。さん、にい、いち、じゃーん」
ふたを開くとずらりと色とりどりのアイスクリームが並んでいた。
「わあ、すごい」
私は身を乗り出して箱を覗き込んだ。
「縦に5列、横に6列並んでる。そしてさらに1個。さあ、全部で何個でしょう」
「ごろくさんじゅう、それに1たして31!」
「計算早いな」
「簡単だよ」
「さすがは俺の黎佳だ。かしこい」
「黎佳はおじさまのじゃないけど?」
「そうか。…黎佳は、目の前に31種類のアイスクリームが並んでいたら、そこから1種類選べる?俺には無理だ、一つに絞るなんて」
楽しそうなおじさまは、部屋に沈んでいた暗い空気を蹴散らすようだった。
「いい?黎佳、一つに絞ることなんてないんだ。ほら、全部一口ずつ食べてごらん。いろいろな味があることを知っている方が、世界は広くなる」