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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第10章 庇護

香さんと入れ違いに来るのは、おじさまの秘書のひとりである羽月美奈子さん。

以前脱水症状で倒れた私を、おじさまと一緒に助けに来てくれたひとだ。


平日、美奈子さんは学校から帰った私を出迎え、学校から受け取った手紙などに目を通してくれる。


「お帰りなさいませ、黎佳様」

スーツ姿の美奈子さんは無感情な声で私を出迎え、事務的なお辞儀をする。

「ただいま戻りました」

「お靴をそろえることをお忘れなく」

「はいっ」

「両膝は付けて屈むようになさってください」

「…はい」

切れ長の一重の知的な眼差しとまっすぐな美しい髪が印象的な痩せた女性だった。

いつも冷静で、常に同じトーンで話すので、仕事の一環として私と相対していたのだと思う。

事実彼女は

「黎佳様をどこにお出ししても恥ずかしくないお嬢様に育てるようにと、社長から指示を受けています」

そう言って、生活態度、言葉遣い、礼儀作法、あらゆることを教え込んでくれた。

そのやり方は厳しく、それでも私は、注意された時はとても怖いと感じながらも深く反省して直した。

きちんとした挨拶ができたり、100点の答案用紙を見せたりしても、優しく褒めるようなことはなく、かすかに口角を上げて「それで結構です」と低いトーンで頷くだけ。

それでも私の心はほっと温まるから不思議だった。

感情の起伏がほとんどない美奈子さんだけど、母が今もそばにいたらこんな感じなのかな、とよく想像していたからかもしれない。

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