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雪女

第3章  夏休み

 見返り坂の上で立ち止まる。

 吐息のような風が耳許を通り抜けた。

 振り返るとあられがいて、僕の髪がフワッと浮いた。

「鈴木あられさん。あなたはこの坂のバスの事故で死んだのではありませんか?」


「いいえ。私は生きています。死んだのは国木雪乃。今、代わります」

 あられの顔が変化して雪乃が現れ微笑んだ。

「貴方に逢いたかった」

「僕に? 本当は中家や宮田の魂魄(こんぱく)を黄泉よみに連れて行こうとしていたのでは?」

「誤解をさせてしまったようね。私達は、ご両親が離婚をしようとしてるので悩んでいる宮田君を元気つけていただけなの。中家君とは、偶然足を閉じたら蚊を挟んだ事を言って足を見せたら、『幸せな蚊だ』と言ったので、だいぶ考えてその意味に気がつきました。あれは確かにまずかったと気づいたけど」

「幽体なのに蚊に刺されるんだ」

「だってあられは実体だもの」


「それで、あなたが現れた訳はなんでしょう」


「貴方に伝えることがあるの」

 ――あのとき――

「下り坂で運転手がブレーキを踏み、私達は前のめりになった。そのとき足元で音がしてバスのブレーキが弱くなった。バスは加速が始まり、また何かがはじけ飛ぶ音がした。運転手の悲鳴がバスの中に響いた。次々に音がする度、バスは加速した。私達の恐怖を乗せて坂道を下っていき、とうとう下から上がってくるクレーン車にぶつかったわ」

「覚えています」

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