🥀Das Schloss des Todes🥀
第1章 mein Prinz
私は、すっかり神様がお兄ちゃんを魔法使いにしてくれたんだと信じ切ってしまっていた。
そんな私に、お兄ちゃんはポケットから銀色の巾着袋を取り出すと、「突然だけど、今から引越しをしない?」と提案してきた。
私は「いいよ。」と即答した。
この家に未練も無ければ、長く留まる理由も無いからだ。
お兄ちゃんは、巾着袋に入れるから持っていきたい物を指差してねと言ってきた。
ベッドも持って行けるの?と聞いたら、お兄ちゃんがプッと吹き出した。
「新居でクララ好みのベッドを新しく作ろうと思ってたんだけど、それでも持って行きたいのかな?」と笑いながら言ったのだ。
そんな事まで出来るとは思ってなかった私はビックリしながら「要らない」と少々顔を赤らめながら答えた。
そしていつも抱き抱えているぬいぐるみや可愛いお人形達、小さい時に何度も読み返した、くるみ割り人形の絵本を指差した。
私が指をさすと、お兄ちゃんが同時に杖を振るう。ぬいぐるみや人形達が宙を舞って、巨大化した巾着袋の大きな口の中へと吸い込まれていった。
家具に関わらず、大体の物は新しく作れると断言されてしまった為、あまり入れる物は無かった。
最後に荷造り不要の便利な巾着袋がひとりでに閉じると、さらに小さく折り畳まれてカードケース並みの小ささになった巾着袋がお兄ちゃんのポケットの中に仕舞われた。
一体どういう仕組みなんだろうと思わず凝視していると、「ほら行くよ」と言われて手を引かれる。
そのまま玄関口へと向かい、玄関先で靴を履くと扉を開けた。
でもその前に、やはり例のリビングルームは気になったので、最後に部屋を覗いた。
死体は綺麗さっぱり消えていた。
ワインボトルの僅かな破片も無いどころか、
テーブルやフローリングは、新品の如くピカピカだった。
ここが殺害現場だと思う人はまず居ないだろう。
いとも簡単に完全犯罪を成し遂げたお兄ちゃんの魔法は、完璧だったのだ。