🥀Das Schloss des Todes🥀
第1章 mein Prinz
冷気が顔に当たって、私は身震いした。
11月のハンブルクの平均気温は大体5度前後だが、夜も深まってくると3度程度かと思われる。
セーターにダウンジャケット、手袋を装着した私はお兄ちゃんと長年住んだ家を出た。
行き先を尋ねようと口を開こうとした瞬間、お兄ちゃんに「少し、後ろに下がってね。」と声を掛けられた。
何でだろうと思いながらも、言われた通りに後ろに5歩下がると、お兄ちゃんは杖を振った。
白い霧に包まれた...と思った次の瞬間、豪華な装飾が施された金色の馬車と白馬が登場する。
17世紀、フランスの宮廷貴族が使用していた馬車のようだった。
「寒いから、早く中に入りな。」
何処かの国王の戴冠式にでも使用されそうな豪華さに、私は目を見開いたまま固まってしまっていると、お兄ちゃんに肩を叩かれる。
慌てて馬車のキャビンへと向かうと、足の速いお兄ちゃんが先に扉を開けて待ってくれていた。
内部は優に2人は座れるスペースがあるにも関わらず、お兄ちゃんは「馬車を操る人が居なくなっちゃうから、またね。」と言って扉を閉めた。
残念だと思いながら、馬車の中をぐるりと見渡す。
真紅に金色の薔薇の絵が無数に描かれ、天井には「K」という文字が掘られていた。
クララのKだったりして
暖房が効いたように暖かい馬車の中で、ふとそんな事を思っていると、飛行機の離陸時に近い、とても大きな浮遊感を感じた。
白馬の鳴き声と鞭を振う音が聞こえ、馬車が動き出す。
馬車の中から、満点の星空とハンブルクの夜の街並みが見えたのだった。
これから何処に行くんだろう。
結局、行き先を聞きそびれてしまった私は想像するしかなかった。
フランスのヴェルサイユ宮殿?
それともロンドンのバッキンガム宮殿?
もしかしたら、モンサンミッシェルの可能性も...。
すっかりフランス貴族のご令嬢になり切っていた私は、御者になったお兄ちゃんが、これから自分を何処へ連れていくのか想像するのに夢中になっていた。