もうLOVEっ! ハニー!
第9章 本性探し
「皆さん……知ってるんですか」
「まあ十数人のこの寮じゃ秘密なんてないに近いからな。誰が誰に、みたいなのは特に広まる」
こえー話ですね。
表情筋肉なるものがあるならば、多分あと五分で筋肉痛になりそうなほど顔が定まりません。
「ガク先輩は、いい人だよ。俺が言うのもなんだけど、面倒見よくてさ、入寮したばっかの時はこばると世話になったし」
陽気が降り注ぐ道をてくてくと。
歩幅を合わせて。
「返事はもうしたの?」
「いえ」
「そっか」
てくてくと。
そうだ。
初めてここでお会いしたのはこの方でした。
あの時は怪我を見られて引っ張られて。
隆人さんのところに……
「あの、陸さん」
「ん?」
「管理人、隆人さんはどんな方ですか?」
「なんで今隆にいの話になるのか気になるけど」
従兄弟だから。
そこでしかわからないことを聞きたくなったのです。
深くは問い詰めず、のんびり答える。
「そうだなー。大変な位置にいるといつも思ってる。うちの寮まともな奴いないからさ。なる先生と良い感じっつってもどこまで本気かわかんねーし。あの人昔からそうなんだよな。なんでも片手間に見えんの。別に天才肌とは違くて。んー、あんま執着しない性格ってのかな。趣味とか知らないし」
「彼女さんはいるんですか?」
「え? まさか……」
驚いて振り向いた顔に首を振る。
「まさか、ですよ」
「んはっ、ビビった」
酔ったときだけ。
私が泣いたときだけ。
別にそれはまさかに繋がらない。
きっと。
にしても、読めない方です。
陸さんですら、大差ないのですから。
美弥さんの言葉が脳に響く。
卑怯な大人。
のらりくらり。
間を縫って楽しく笑う。
卑怯な大人。
「着いたよ」
玄関で立ち止まった私に、陸さんは優しく声を掛けました。
下駄箱から上履きを取り出す。
ぱこん、と落として履く。
「っ……」
あ。
感覚の再現。
いや、現実。
ずぐりと足の裏を刺した異物。
そろそろと足を引き抜くと、血が滴った。
非現実的な赤に、周りがざわつく。
「嘘だろ」
陸が素早く上履きを取り上げて中を覗く。
しかしすぐに裏返して、あるものを引き抜いた。
靴底から貫通させた針。
裁縫針。
「……なんだよこれ」
じんじんと痛む足を見下ろす。
ああ、またお前か。
過去がにやりと。