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もうLOVEっ! ハニー!

第14章 思惑シャッフル


 寮の最寄り駅につき、コンビニで夜食を買うと言って消えた相方を待つ間、ぼんやりと雑踏を眺める。
 まだ余韻が残ってる。
 スモークの中で腕を振り上げ、風を巻き起こし、炎を操るように歌声で演出を際立たせる。
 携帯のライトで照らしたバラードの時は泣いた。
 自分と一回りしか違わないのに。
 不思議だ。
 ふと、見慣れた横顔が改札から出てくる。
 岳斗先輩だ。
 服でも買いに行ってたんだろうか。
 せっかくだし、夕飯でも奢ってもらおうかと手を上げようとした時、後ろに続く人影に全身が固まる。
 かんなだ。
 改札を出て、手を繋ぐ二人。
 明るく笑いあって。
 横断歩道で立ち止まり、何か話してる。
 顔を近づけて。
「お待たせ、尚哉。おーい。くーちゃん。どした」
 視線の先を追ったマリケンが間抜けな声を出す。
「休み入った途端、口説き落としに行ったの!?」
「皆まで言うなよ……」
 急に世界が現実のスケールに縮小していく。
 無限の可能性と、夢の輝きが閉じていく。
 ああ、そうか。
 簡単な事実だけが目の前に突き出される。

 俺は選ばれなかったんだな。

 喪失感が足を冷たくする。
 夏の日差しが凍りついたように世界が灰色になる。
 そうか。
 岳斗先輩は、かんなの試験をクリアしたのか。
 あの先輩のことだ。
 キスくらい朝飯前だろ。
 ああ、そうだよ。
 そんなの初めから……
「わかってたのにな」
 あまりに声が枯れていて笑いが込上げる。
「大丈夫だって、くーちゃん。今日の格好良さがあれば、女選び放題だよ」
 慰めているのだろうが、響かない。
 選べたから、なんだと言うのだ。
 チャンスを物にできない弱者に。
「相手が悪すぎるって……」
「そうだな。身の程知ったよ」
 これ以上親友に失態を見せるわけには行かない。
 今日は瑠衣のライブの日なんだ。
 人生最高の快感を味わったばかりなんだ。
 手に食い込むビニールの袋を、さらに強く握る。
「マリケン。ピザでも買ってくか」
「Lサイズ五枚?」
 右手をパーにして強調する笑顔につられて笑う。
「三だよ、三。ハンバーガーも食べすぎたろ」
「じゃあサイドのチキンバスケットも買う」
「そうだな。散財だ。散財」
 気づくと二人の姿はもう信号を渡って寮の方へと消えていた。
「なんというか、あれだ。キツイな」
 つい出てしまった。

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