もうLOVEっ! ハニー!
第19章 友情の殻を破らせて
廊下で待たせるのも悪いので、とルカが招き入れた部屋は、まず大きな鏡が目に飛び込んできた。
壁に付けられた縦二メートル、横一メートルのそれは、試着室でしか見たことないサイズ。
玄関の真横に取り付けられている。
「すご! 試着室じゃん!」
同じ感想に笑ってしまう。
「普通に欲しいな、これ」
本気で欲しそうな岳斗の横腹を美弥が小突く。
「背高ノッポあるあるは聞いてないしー」
痛そうに撫でながら、部屋に入る。
ふわりと上品な香りに満ちている。
なんだろう、フローラルで爽やかな香り。
丸めたヨガマットが立てかけられ、ベッド以外のスペースには腹筋マシーンとぶら下がり健康器。
「ここはジムかにゃ」
「気休めですよ」
来客に緊張することもなく、ルカはベッド脇の小さな棚を探っている。
詮索してはいけないと思いつつ、ついつい目線が散ってしまう。
流し台のそばに並んだプロテインの袋。
ベッドの前の壁に貼られた、下着モデルのポスターの数々。
窓辺に置かれたディフューザー。
入った時の香りの正体。
「ルカ、懸垂できんの?」
健康器をじーっと見ながら美弥が尋ねる。
「出来ますよ。主に足上げで使ってますが」
見せて、の目線に作業を止める。
慣れた手つきで背伸びをして、逆手でぶら下がると、爪先までピンと伸ばしてL字に足を上げた。
その安定感に拍手したくなる。
「やばっ。ルカむきむきなんだ」
「何を今更です。美弥先輩も色々やってらっしゃるでしょう」
「同じ土台に乗せないで。あ、ほら。健康器空いたよ! ガク!」
ルカが降りたあと、さあどうぞ、と手を広げて大仰に誘う。
声をかけられた本人は、心底面倒くさそうに頭を掻いている。
「あのな。俺、バスケ選手。見せるまでもない」
「かんなも見たがってる」
急に振られて、つい頷いてしまう。
ルカは作業に戻りながらもちゃっかりと、どうぞ、と手を差し出す。
仕方がないと手をかけてから、身長差で膝を曲げないとそもそもぶら下がれないのに気づく。
「ナチュラル身長自慢かよ!」
「理不尽すぎるやろ」
ため息を吐いてから、岳斗は軽く三回ほど懸垂をして見せた。
ゆっくりと、腕の筋を浮かせながら。
つい拍手をしてしまった。
美弥もパチパチと続ける。
「流石すぎ!」
「じゃあ、次。お前やな」
やる気満々に美弥が手をかけた。